顔彩・水彩イラスト メイキングNo.2|「内在する悪威」

月代涙です。イラストメイキングおよび解説です。

久しぶりに顔彩(水彩の日本画材バージョンみたいな絵具)で絵を描きました。

今回はいつものこってりした塗りから一転、水彩らしさを活かしながら塗ることを意識しました。水彩境界がなかなか面白いイラストに仕上がったと思います。

  • 支持体(紙)・・・CANSON XL SAND GRAIN
  • 使用画材・・・顔彩

前回のメイキングはこちらから。

顔彩・水彩イラスト メイキングNo.1|「無響」月代涙です。 顔彩で描いた絵のメイキング記事です。 iPadを用いた下図制作から顔彩での着彩までの工程を紹介します。 ラフ...

下図制作(デジタル)

今回も下図はデジタルで起こしました。デジタルは何度も容易に描き直せるので、私のように「ああでもない、こうでもない」と画面をこねくり回してしまう絵描きさんにオススメです。

一発で顔のバランスや描き込みを決められる絵描きさんに毎秒憧憬。

下図の転写・線画


デジタルで描いた下図を紙に転写します。

今回使ったのはCANSON(キャンソン)のXL SAND GRAINという紙を使いました。

質感はザラザラしており、紙もあまり厚くはありません。完全に水彩向きではない感じがします。多分鉛筆画がパステルに適した紙だと思います。

今回は「こってり塗り込まない。水彩境界で画面を作る」が目標だったので、いかにも水彩境界がくっきり出て塗り込みに堪えなさそうな紙を敢えて選んだ……というのもあります。

XL SAND GRAINは世界堂などの一般的な画材店で購入できると思います。私は世界堂で購入しました。

下塗り


下塗りです。今回は「水彩らしさと向き合う」ことが目標なので、下塗りも水を多めに、あえてムラを残して塗ることを意識しています。

水を多めに溶いた顔彩絵具を、筆から雫が滴るくらいたっぷりと取り、優しい力加減でさらさらと塗りました。

渇く速度の差によって水彩境界や滲みの広がり方をある程度予測できます。

「この色は全体的に薄く伸ばして滲ませたい」と思うときは乾ききる前に水分を足したり、色を置く前に塗りたい部分を湿らせておいたりします。

「この色はピンポイントで置きたい」と思うときは、濃い目に溶いた色を水分少なめで置きます。

やはり顔彩の渋い色合いは最高ですね!!

この鶯色っぽい緑、今まであまり注目していなかった色なのですが……めちゃくちゃ好みの渋さで最高。これからたくさん使いたいです。

さて、全体が渇く前に一気に色を置いていく工程を3回ほど繰り返し、下塗り作業は終わり。次に塗り込み作業に入ります。

塗り込み

次は大好きな塗り込み作業。

塗り込み作業は大好きなのですが、いつも時間をかけすぎて中弛みしてしまうので、今回は素早く、鉄が熱いうちにせっせと塗り終えるのが目標です。

紙の性質も相まって普段とは全然違う色の置き方をしていますね。息をするように水彩境界が出る……ッたまらん……ッッ!!!!

髪はところどころに濃い黒色を置き、水彩らしさを残しつつ束感を出していきます。

髪と顔を塗りました。あと手前の黒い部分の輪郭を面相筆で補強しました。

今回は黒い部分を混色ではなく黒の絵の具で塗っています。そのためか墨みたいに強い色合いが出ています。混色で黒を作ったほうがよかったかもしれません。

髪の緑っぽい感じと黒の混ざり具合が理想通りに仕上がりました。コントラストが強く、かつ水彩のムラがいい意味で活かされている気がします自画自賛!

続いて花のモチーフを塗ります。

今回は花はメインとなる青年の顔から遠く、かつ青年より後ろに配置されているので、あまりしっかりは塗り込みません。

顔彩の銀鼠色に紫を混ぜ、淡い下塗りを残すように色を置きます。鉛筆の線が消えてしまったので、やや濃い目に溶いた灰色で薄っすら線を補強します。

画面が全体的に暗く、同系色ばっかりだったため指し色的に花百緑を胡粉で溶いた色を花にちょんちょんと乗せ、水でうす~く伸ばしました。これにより少し画面が軽やかになりました。

それと同時に手前の黒も線画に沿って整えていきます。今回は下塗りの水彩らしさを活かしたかったので、薄いところを濃くするのではなく、色の薄いところを灰色で重ねることにしました。

ここまできたら9割完成です。あとはピンとくるまで細かいところを整えて、ひたすら完成を目指すのみ!

完成


<内在する悪威>2024年

タイトルの「悪威」は私の造語です。「悪」は言わずもがな、「威」には“おびやかす”“人を恐れさせる力”などの意味があります。

この絵の青年は血筋による悪逆と淫蕩の性質に抗えず独り悩み、自分の内側に確固たるおぞましい世界観を構築している妄想家。外的には善良な市民であろうと努めているものの、その内在する性質故に周囲には訝しまれ恐れられ……という設定があります。

このような在り方の青年なので、「悪意」ではなく「悪威」という漢字の連なりが合っていると思い造語してみました。読みはそのまま「あくい」です。

最近は自分の絵について「いかにして絵の情報量を増やすか」を研究しており、その過程でなぜ自分の絵には情報量が少ないのか?をずっと考えていました。そこで気が付いたのは、自分の塗りにはコントラストと冒険心がないことです。

思い返してみると、確かに私には塗りムラや強いコントラストを出すことに強い抵抗感と恐怖心がありました。塗りムラが出て失敗したらどうしよう……!!と思って筆が止まる心配性の性格故です。そのためにいつもベッタリ・コッテリした塗りしかできないことが自分の絵の課題でした。

今回はその抵抗感と恐怖心を克服するために、あえて水彩境界の出やすく厚塗りに耐えない薄い紙を用い、水彩らしさを残して描く練習をしてみました。

結果、水彩のムラはめっちゃイイ味になること、むしろ画面に情報量を増やしてくれることを学べました!

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ここまでお読みいただきありがとうございました!

このブログでは、正社員で一人暮らしをしながら作家活動をしている私・月代涙の日常や絵について発信しています。よかったらほかの記事も覗いてみてやってください~(‘ω’)ノ

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